多島 斗志之 (たじま としゆき)

「症例A」 多島斗志之 著

<あらすじ>

精神科医の榊は美貌の十七歳の少女・亜左美を患者として持つことになった。亜左美は敏感に周囲の人間関係を読み取り、治療スタッフの心理をズタズタに振りまわす。榊は「境界例」との疑いを強め、厳しい姿勢で対処しようと決めた。しかし、女性臨床心理士である広瀬は「解離性同一性障害(DID)」の可能性を指摘し、榊と対立する。一歩先も見えない暗闇の中、広瀬を通して衝撃の事実が知らされる・・・。正常と異常の境界とは、<治す>ということとはどういうことなのか?

七年の歳月をかけて、かつてない繊細さで描き出す、魂たちのささやき。

 

<感想>

560ページにもわたる長編小説。

小説に気持ちが乗るまでに時間がかかったが、一気に展開していく中程からはほぼ一気読み。

「ミステリー小説」に分類されているし、一応地味にミステリー要素はあるけれど、ミステリーの部分を期待して読む小説ではありません。

あらすじにある「解離性同一性障害(DID)」いわゆる「多重人格」ものを期待してサイコ的なものを期待されると見事に裏切られます。

逆に、多重人格を興味本位のものとせず、膨大な文献を踏まえ、丁寧に、真摯に書かれてある小説です。

「解離性同一性障害」以外に、「分裂病(現:統合失調症)」や「躁鬱病」も詳細な解説が述べられているので、医学的に精神疾患に興味のある人には勉強になります。そうでない方には面白みもない文章の羅列でしかないかも知れませんが。

と、感想を述べると、医学ミステリーだけのようですが、エピソードは2つが平行して語られ、最後にリンクしていくパターンです。

もうひとつは「首都国立博物館の狛犬は贋作なのか?」をベースにした江馬遥子と言う女性の話です。

こちらにもミステリーは含まれていますが、私はこちらの章を読むのが面倒でした。

先日、タイムリーにも読売新聞で「誤診を受ける精神疾患」のコラムを数日に渡って読んだところでした。

精神科を受診しても、医師との診察時間が短く、医師と人間関係を結べないまま診断され、投薬される。服薬するが薬の副作用で日常生活をスムーズに送れなくなり、再度受診。ここでも時間をかけて診断してもらえず投薬が増える。結果、仕事(学校)へ行けなくなる・・・と言うのが多くの現状だそうです。

本書にも、いい加減な暴利主義の病院や医師にも触れているし、診断をつけることがどれだけ時間を要し、むずかしいのかにも触れています。

本書に出てくる榊医師のように真摯に治療してくれる医者がこれからはもっと必要な時代になるだろうと思います