白石 一文 (しらいし かずふみ)

「すぐそばの彼方」 白石一文 著

<あらすじ>

次期首相の本命と目される大物代議士を父にもつ柴田龍彦。

彼は、四年前に起こした不祥事の結果、精神に失調をきたし、

父の秘書を務めながらも、日々の生活費にさえ事欠く不遇な状況にあった。父の総裁選出馬を契機に、政界の深部に呑み込まれていく彼は、

徐々に自分を取り戻し始めるが、再生の過程で人生最大の選択を迫られる…。一度きりの人生で彼が本当に求めていたものとは果して何だったのか。『一瞬の光』『不自由な心』に続く、気鋭の傑作長編。

 

<感想>

政治を舞台に、人生論を加えた話。

総裁選というトップ争いが繰り広げられていき役職名やそれに纏わる人間関係の複雑さのために読み進めるのに少しばかり苦労しました。政治に興味がないワケじゃないが、むずかしい政治の話が続くと読みづらく読み進められない時もあった。

主人公:柴田は白石作品によく出てくる優秀だけど客観的に見たらダメ男。

その柴田が挫折をし、再生していく物語。

 

「私という運命について」 白石一文 著

<あらすじ>

人は、ほんとうにみずからの意志で自分の人生を選び取ることができるのだろうか―。

恋愛、仕事、結婚、出産、家族、死・・・・。

大手企業に勤務するキャリア女性の29歳から40歳までの"揺れる10年"を描き、「運命」の不可思議とその根源的意味を鮮やかに描いた書き下ろし900枚、待望の刊行。

 

<感想>

この小説、やたらにあちこちの書評で紹介されていたので即購入してしまった。

内容は簡単に言うと亜紀と言う女性の29歳から40歳までを描いた小説。

女性の文体だが違和感はない。

確かに、自分で選び取っている人生のつもりでもそれは見えない何かのチカラで指針を動かされているのが運命と言うものかも知れない。亜紀は一流企業に働くキャリアウーマンで容姿端麗。恵まれている彼女に時に襲いかかる出来事を受け入れつつ成長していく姿が描かれている。亜紀に共感できなかったので入り込む事はないかったけれど。何もかもを「運命」と言ってしまう事を私は好きではない。けれど、小説の中に出てくる康(やすし)と言う男性の運命については(確かにこう言うことがあるんだよな)と思ってしまい運命とは残酷だと思った。ひとりの女性の半生を描き、運命をも受け入れると言う手法で書いた以上

仕方ないのだろうがやたら達観しているように思えてしまったのは残念。

私は「僕のなかの壊れていない部分」みたいな現在(いま)を受け入れられずもがいてる白石小説の方が好きだ。

 

「一瞬の光」 白石一文 著

<あらすじ>

38歳という若さで日本を代表する企業の人事課長に抜擢されたエリート・橋田浩介。彼は、男に絡まれていたところを助けたことがきっかけで、短大生・中平香折と知り合う。社内での派閥抗争に翻弄される中、

橋田にとって彼女の存在は日増しに大きくなっていった。橋田は、香折との交流を通じて、これまでの自分の存在意義に疑問を感じ、本当に大切なことを見いだしていくのだった。混沌とした現代社会の中で真に必要とされるモノは何かを問う、新たなる物語。

 

<感想>

彼の作品は3冊目。

今回も非の打ち所のない東大卒・ハンサムで仕事ができる「3高」どころか「一体何高?」

とツッコミたくなる程完璧な条件の男が主人公。彼をはじめとして、彼の彼女や

ただひとりの親友まで「それはないでしょう~」とツッコミたくなるような設定なのに、

理屈ではないパワーを本書からは感じ、580ページもの厚さの本にも関わらず、

ぐぃぐぃ引き込まれ読んでしまった。そして・・ナゼか心にじわ~っと来てしまった。

「人を愛すること」「生きていくこと」「仕事について」など橋田浩介という男を通じて

彼の人生の一瞬を体験できた気がした小説。

「僕のなかの壊れていない部分」「不自由な心」同様、哲学的な表現が多く、

どうもひねくれた印象があるがそう言うのも平気っと言う方には勧める。

男が読んだ感想を聞きたいと思う。

 

「不自由な心」 白石一文 著

<あらすじ>

5編の中編からなる作品集。

・天気雨 ・卵の夢 ・夢の空 ・水の年輪 ・不自由な心 の以上5編

人は何のために人を愛し、何のために生きていくのか―。

大手企業の総務部に勤務する江川一郎は、妹からある日、

夫は同僚の女性と不倫を続け、滅多に家に帰らなくなったことを告げられる。その夫とは江川が紹介した同じ会社の後輩社員だった。怒りに捉えられた江川だったが、彼自身もかつては結婚後に複数の女性と関係を持ち、そのひとつが原因で妻は今も大きな障害を背負い続けていた・・。(「不自由な心」)

人は何のために人を愛するのか?その愛とは?幸福とは?死とは何なのか?

透徹した視線で人間存在の根元を凝視め、緊密な文体を駆使してリアルかつ独自の物語の

世界を構築した、話題の著書のデビュー第二作、会心の作品集。

 

<感想>

あとがきに白石氏自身が書いているが、

表題作の「不自由な心」1つでは読者がわかりづらいと考え、別の4編も併せて順番の読み進めてくれると最後の表題作がより咀嚼しやすいと語っているが、読み終えた私もそう感じた。5編とも結婚しているサラリーマンが主人公で、いろんな思いで妻以外の女性を愛しているもしくは関係を持っていると言う設定で描かれている。「僕のなかの壊れていない部分」でも思ったが、白石氏の作品は読んでいて楽しくなる事はない。文章まわしもむずかいしし、難解だなと思いながら読みたくなってしまう魔法がかかってるような気さえする。

強く感銘を受けたワケではないけれど、「卵の夢」の父親・武吉にはジ~ンと来た。

 

「僕のなかの壊れていない部分」 白石一文 著

<あらすじ>

松原直人は、出版社勤務の多忙を極める30歳。

才色兼備の枝里子という恋人がありながら、人妻、離婚歴のある子持ちの女性とも関係を続ける。驚異的な記憶力を持つが、それには理由があって…。

 

<感想>

万人受けしない小説だろう。

長編小説の上、哲学的な表現を多様し、受け入れる砦を高くしている。

とにかく主人公がとことん屈折しているのである。

この手の小説は(興味)を持ってしまえば読めるが、(わからない)と思ってしまった時点でお手上げだろう。

なのに、ナゼかこの小説はロングセラーであり、絶賛され続けいる。

皆に「わからない。理解を超えている。好きになれない」と言われながら尚も売れる不思議。

私も半分ぐらいまでは「なんや?コレ」と思いながら読み進めた。

そこまで思わせながらも完読させてしまう文章運びがあるのだから

白石氏を侮るなかれだ。

一流の出版社勤務のエリートの生活は、何不自由のないモノに見えるが、実は幼少期のトラウマを背負い、現在も田舎に病気の母親を抱える男でもある。

そのギャップが彼を現実の世界に浮いたような考え方、生き方をさせているのだろう。

題名の「僕のなかの壊れていない部分」とは、社会の中で仕事をし、自分で生活をしていると言う1点についていっているのかも知れず、私には主人公が、ノーマルとアブノーマルの境を歩いているように感じた。

一歩踏み間違えてしまえば、今の暮らしを一転させてしまいそうな危うさを持ちながらも男としての色気が漂うがために、「嫌いなりきれない」「どうしても放っておけない」そう思わせてしまう男なのである。