桐野 夏生(きりの なつお)

「ハピネス」 桐野夏生 著

<あらすじ>
高級タワーマンションに暮らす岩見有紗は窒息寸前だ。ままならぬ子育て、しがらみに満ちたママ友との付き合い、海外出張中の夫:俊平からは離婚申し出、そして誰にも明かせない彼女自身の過去。軋んでいく人間関係を通じて、徐々に明らかとなるそれぞれの秘密。華やかな幸せの裏側に潜む悪意と空虚を暴き出す。

<感想>
ベイ・イースト・タワー(BET)とベイ・ウェスト・タワー(BWT)の2棟からなるベイタワーズマンションに賃貸で住む花奈ママこと岩見有紗は、BETに住んでおり、夫は海外赴任中。ママ友は、タワマンの中でも一等地と呼ばれるBWTの47階に住み夫は大手出版社勤務である、いぶママ。美雨ママこと洋子は、他のママ友と異なり、門前仲町のレンガ貼りのマンションに住む地元ッ子。他に、有紗の住むBETよりもランクが上とされるBWTに住む二児のママ:芽玖ママと、真恋ママが織りなす30代のママの話でした。
ふたりの子どもを育ててきた私としては、(十分にあり得る)と思いながら読みました。
最初は、花奈ママこと有紗の生き方にイラついたり、体裁ばかり気にする姿勢にムカついたりしたけれど、この小説がラストで有紗が成長していく姿が見えました。
東京に住んで、ブランドものに囲まれて、キレイでスタイルが良く、夫もエリート・・・どこから見ても幸せそうな家族も何かを抱えているし、見かけ、体裁だけを取り繕っても中身がなければ・・・ね。
自分はバレでいない、隠せていると思っていても、案外他人には、ひとの中身まで見えてたりする。
人として、魅力的なひとになりたいなと思いながら読みました。

子育てで苦しんでいる若いママ。
もしもこのblogを偶然でも読んでくれたら、伝えたい。
そんなの一瞬。ほんの数年。
ママ友のことで苦しむことはない。いなくてもやっていけます!

子育てを越えてきた私からの言葉(^o^)

 

 

「東京島」 桐野夏生 著

谷崎潤一郎受賞作

 

<あらすじ>

清子は、暴風雨により孤島に流れついた。夫との酔狂な世界一周クルーズの最中のこと。その後、日本の若者、謎めいた中国人が漂着する。三十一人、その全てが男だ。救出の見込みは依然なく、夫・隆も喪った。だが、たったひとりの女には違いない。求められ争われ、清子は女王の悦びに震える―。東京島と名づけられた小宇宙に産み落とされた、新たな創世紀。

 

<感想>

ん~・・・読み終えるのにかなり苦労した。

桐野夏生さんの小説は好きだし、映画化にもなったのだからおもしろいんじゃないだろうかと思っていたのだけど。

設定はおもしろいのに、サバイバルを描くワケでなく、人間関係の対立を描くワケでなく、焦点がぼやけた感じ。桐野氏らしいと言えば無人島に漂流、31人の中に女は清子ただひとり。その彼女の年齢を46歳で「生」に執着している強欲な女性にした点と、ラストの脱出できた組とできなかった組の表現かなと思う。

で、この原作をこのまんま映画化すると言うのにはムリがあると思われる。さてさてどんな脚本で映画にしたんだろうか?

 

「魂萌え!」 桐野夏生 著

<あらすじ>

夫婦ふたりで平穏な生活を送っていた関口敏子、59歳。63歳の夫・隆之が心臓麻痺で急死し、その人生は一変した。8年ぶりにあらわれ強引に同居を迫る長男・彰之。長女・美保を巻き込み持ちあがる相続問題。しかし、なによりも敏子の心を乱し、惑わせるのは、夫の遺した衝撃的な「秘密」だった。

 

<感想>

過去の桐野作品とは雰囲気が違う作品だった。

「魂萌え!」の主役は「OUT」や「柔らかな頬」の主人公が持つ違和感や怒りを持たないどこにでもいるような平凡な主婦=敏子。彼女が立ち向かうのは、ツライ現実だけれど世間的には特別珍しくもない出来事である。けれどそのあり得そうな日常に一喜一憂しながら成長していく59歳の老年期目前の女性の生き様に感動すら覚えた。

きっと、こうして多くの主婦は日常を恙なく(つつがなく)暮らすために、

≪なんとなく感じている違和感に気付かないフリをして目の前の事だけを処理して生きている≫のだろう。

読みながら、母親が越えてきた人生を見たような気がした。そして、ソレは私とは違うと確認したようにも思う。読みながら、読み終えても尚、

還暦目前で人間として強く成長して行こうとする敏子さんを応援せずにはいられなかった。人生死ぬまで勉強・努力と言うことか

 

「グロテスク」 桐野夏生 著

<あらすじ>

光り輝く、夜のあたしを見てくれ。堕落ではなく、解放。敗北ではなく、上昇。昼の鎧が夜風にひらめくコートに変わる時、和恵は誰よりも自由になる。一流企業に勤めるOLが、夜の街に立つようになった理由は何だったのか。『OUT』『柔らかな頬』を凌駕する新たな代表作誕生。

 

<感想>

題名「グロテスク」は何かにこだわる事で他が歪(いびつ)になっていく様を表現したのだろうか?本文は、登場人物が誰か(警察!?)に回顧録のように話しかけている表現で書かれていたり、日記でなりたっている為、文章力がないように感じられ、その点読みづらいが、最後に真相がわかるのではないかとただ読み進んでしまう魅力はある。

私は女なので、コンプレックスが土台になり、グロテスクの世界に入り込むことはあり得ると思う。

理想の自分を作るために自壊していく様はまさしくグロテスク。

 

「柔らかな頬」 桐野夏生 著

121回直木賞受賞作品

 

<あらすじ>

私は子供を捨ててもいいと思ったことがある。5歳の娘が失踪した。夫も愛人も私を救えない。絶望すら求める地獄をどう生き抜くか。「OUT」から二年、孤独と自由を追求する書下ろし問題作!

 

「現代の神隠し」と言われた謎の別荘幼児失踪事件。姦通。誰にもいえない罪が初めに有った。娘の失踪は母親への罰なのか。四年後、ガン宣告を受けた元刑事が再捜査を申し出る。34歳、余命半年。死ぬまでに、男の想像力は真実に到達できるか。121回直木賞受賞作。

 

<感想>

同じ子供を持つ親として、題材はかなり重い。主人公 カスミ に感情移入こそできないけれど、人簡単には本当にいたい場所を探すことができないものなんだと思う。ここに本当にいたいのか?を選択をする時、ひとはそれがBESTだと考えて選ぶのだけれど、だんだんそこが居心地の悪い場所になる。ここにいたかったわけではなかったのだと気付く。

それでも、そこを自分の居場所にするために、努力し、違和感に鈍感になる自分へと変えてゆき、慣れてゆく。新しい目的を探してそこにいつづけることができるひとは幸せだ。この主人公:カスミはそれができなかった。

愛人:石山に、その夢を託したこともあったが、自分の愛娘:有香を失踪事件という形で失ってしまい、なんとか帳尻を合わせようとしてきた歯車を狂わせてしまう。そうなると修正は効かない。それが人生の恐ろしさなのだろうか・・・・。

緻密な描写で、人物心理を描いている 桐野 夏生氏。

ミステリィというよりも、その形をとった小説という印象。

 

「錆びる心」 桐野夏生 著

<あらすじ>

6話短編集。

10年間耐え忍んだ夫との生活を捨て家政婦になった主婦。(錆びる心)

囚われた思いから抜け出して初めて見えた風景とは。(錆びる心)

劇作家にファンレターを送りつづける生物教師の”恋”を描いた短編。(虫卵の配列)荒廃した庭に異常に魅かれる男を主人公にした話。(月下の楽園)など、ほか3作品。

 

<感想>

普通の暮らしている誰もが持つちょっとした心の歪み、癖。それらをうまく話しに取り入れ、ただのくせ、仕方ないとあきらめている性格などが事件を生んでいくことに焦点を当てた短編集。心のひだがリアルに描いてあり、まさに錆びていく心の手触りが分かるようである。どこでもいるような普通の主婦の心の中には、闇があり、その闇とはなにかの拍子に簡単に壊れ、1度壊れたらそれはダムが決壊したように、止まることはないと言う視点が良かった。

今回の短編集は、桐野作品の中ではかなり軽めに感じるが、一気に読めたほど、なかなかおもしろかった。また、次の作品を読みたいと思わせる作家である。私個人的には、表題作の「錆びる心」が好き

 

「OUT」 上下巻 桐野夏生 著

<あらすじ>

ごく普通の主婦であった彼女たちが、なぜ仲間の夫の死体をバラバラにしたのか!?深夜の弁当工場で働く主婦たちは、それぞれの胸の内に得体の知れない不安と失望を抱えていた。「こんな暮らしから抜け出したい」そう心中で叫ぶ彼女たちの生活を外へ導いたのは、思いもよらぬ事件だった。なぜ彼女たちは、パート仲間が殺した夫の死体をバラバラにして捨てたのか?犯罪小説の到達点!

 

<感想>

"OUT" 私には衝撃的な小説だった。

主人公が抱える心の闇。仕事をすることで自分の価値観を得ていたのに、仕事からはリストラされ、そのときには既に夫との関係は破綻し、息子も自分には理解できない状況にまでなっていた。 ((こんな生活から抜け出したい。けれど抜け出す術がない))そんな彼女たちが見る見るうちに堕ちていく地獄。簡単には起こりえないようでいて、堕ちる事などは本当は簡単だと言う怖さを秘めた小説だと思う。私はこの危うさがたまらなく好きだ。常識・当たり前・普通・・・・そんなものから"何がきっかけ"で堕ちるのか?私はそこの惹かれるものを感じる。